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高齢者の賃金に関する過去の判例

60歳定年を定める会社で、継続雇用制度を導入していない場合に、
60歳定年で従業員を退職させた場合は無効となるのですか?

NTT西日本事件(大阪地裁H21.3.25)では、判決で、

「原告は、同条には私法的効力があり、したがって、事業主と労働者間の法律関係について、事業主に私法上の義務を課すものである旨主張するところ、・・・、同主張は理由がなく、かえって、同条は、私人たる労働者に、事業主に対して、公法上の措置義務や行政機関に対する関与を要求する以上に、事業主に対する継続雇用制度の導入請求権ないし継続雇用請求権を付与した規定(直截的に私法的効力を認めた規定)とまで解することはできない。」

と述べて、60歳定年制の企業において、定年を理由として退職させたとしても、それが直ちに無効になることはないと判断しています。

再雇用を拒否した場合、それが無効(または違法)とされた場合、どうなりますか?

過半数組合不在・労働者代表未選出の下での労使協定による継続雇用制度の導入が無効とされた事例(京濱交通事件、横浜地裁川崎支部H22.2.25)によると、原告(従業員)は被告(会社)に対し、労働契約上の地位にあるとし、本案判決確定の日までの再雇用拒否当時の平均賃金の支払いを命じました。

また、再雇用基準を満たしながらも労働者に不利益を与えることを目的としてなされた再雇用を拒否した会社に対し、労働契約上の地位を認めることはなかったものの、労働者に不法行為による損害賠償額として500万円(原告の請求金額約1300万円。賠償額の根拠について、判決では本件に顕れた一切の事情を総合考慮して決めるほかないとしています)、その他弁護士費用を支払うように命じた裁判例があります(札幌高等裁判所H22.9.30日本ニューホランド事件)。

再雇用をした場合、賃金を引き下げることができますか?

定年後雇用が継続された場合の労働条件が問題になった事例(X運輸事件、大阪高班H22.9.14)では、再雇用後の賃金が、正社員当時の54.6%に低下したにもかかわらず、労働者の訴えを退けました。

ただ、判決では両者の賃金格差は軽視できないことを指摘しており、高年齢雇用安定法の趣旨を無にする程度の見過ごすことができない労働条件の低下については、損害賠償請求が認められる可能性がないとはいえません。

また、嘱託契約終了後の継続雇用制度による再雇用を拒否されたため、雇用契約上の地位確認を求めた事例(津田電気計器事件、大阪地裁H22.9.30)では、就業規則で、本給の最低保障は満61歳(61歳までの勤務を終了した従業員を対象とする制度のため)のときの基本給の70%とすることが規定されていました。

しかし、会社は再雇用基準を満たした労働者に対し、就業規則に定める労働条件で再雇用することを申込み、労働者は再雇用を希望することで、それを承諾し、これにより再雇用契約が成立すると判断しています。

参考資料:『ビジネスガイド』2011年8月号(p18~27)「重要判例を一挙解説!!継続雇用・再雇用をめぐる裁判例の動向と実務上の留意点」